肺性心(ラテン語:cor pulmonale)を一言で表現するなら、「肺の病気が原因で心臓が機能不全に陥る状態」です。私たちの身体では、右心室から送り出された血液が肺動脈を通り、肺の毛細血管で酸素を受け取って左心房・左心室へと向かいます。通常、肺の血管抵抗は全身の血管抵抗に比べて極めて低く、右心室は薄い筋肉の壁で軽々と血液を肺へ送り届けることができます。
しかし、肺に構造的・機能的な破壊が起きると、このバランスは音を立てて崩れます。代表的な引き金となるのが、長年の喫煙歴などが引き起こす慢性閉塞性肺疾患(COPD)や、肺が硬く縮んでいく間質性肺炎です。MSDマニュアル等の医学文献が示す通り、肺胞の破壊に伴って張り巡らされていた毛細血管床が激減し、さらに低酸素血症によって肺動脈が収縮(低酸素性肺血管攣縮)を起こします。逃げ場を失った血液によって肺動脈の圧力は跳ね上がり、肺高血圧症が形成されます。
高血圧状態の肺へ無理やり血液を押し込み続けるため、右心室の筋肉は次第に分厚くなり(右室肥大)、やがてポンプとしての限界を迎えて風船のように伸び切ってしまいます(右室拡張)。これが肺性心の原因と発症メカニズムの核心です。左心系の疾患(心筋梗塞や弁膜症など)が原因で起きる心不全とは根本的に出発点が異なり、あくまで「肺の病変から心臓が二次的に破壊されていく」点に、この疾患の特殊性と恐ろしさがあります。