魚の骨が喉に刺さった際、検索エンジンやSNSで「喉 魚の骨 裏ワザ」と調べると、様々な民間療法がヒットします。しかし、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会をはじめとする専門医組織は、こうした自己流の裏ワザに対して強い警鐘を鳴らし続けています。
代表的な誤謬が「ご飯の丸呑み」です。昔から親しまれてきた家庭療法ですが、ご飯の丸呑みが極めて危険な理由は、固形物の圧力によって骨が粘膜の深層へ潜り込んでしまう点にあります。浅く引っかかっていただけの骨が、ご飯の塊に押し込まれて扁桃腺や咽頭の筋肉組織を貫通し、最悪の場合は食道壁を突き破る「食道穿孔(せんこう)」を引き起こす要因となります。医師が視診で目視できなくなり、摘出手術が格段に難航する原因の筆頭です。
また一部で囁かれる「お酢を飲んで骨を溶かす」という噂の真相も、科学的にはナンセンスと言わざるを得ません。魚の骨の主成分であるリン酸カルシウムを酢酸で溶かすには、試験管の中に数時間から数日浸しておく必要があります。喉をわずか数秒通過する程度のお酢では骨はミリ単位も軟化しません。それどころか、お酢の強い酸性が骨で傷ついた咽頭粘膜を直撃し、激しい化学的刺激や炎症を誘発するため、百害あって一利なしの危険な行為です。
さらに危険なのが、洗面所の鏡を見ながら自力でピンセットや毛抜きを使って骨を抜こうとする処置です。喉へのピンセットを用いた自力除去の危険性は極めて高く、暗く狭い口腔内で器具が咽頭後壁や舌根部を誤って傷つけ、太い血管を損傷して大出血を招いたり、激しい嘔吐反射(咽頭反射)で器具を喉の奥に落として誤飲したりする重大事故が後を絶ちません。