二人の関係は、単なる呑み友達の枠をとうに越えていた。関係者の間では、一時期「二人は本気で所帯を持つのではないか」と真剣に囁かれていたという。志村の自宅に太地が足繁く通い、台所で手料理を振る舞う姿も目撃されていた。数多の浮名を流した自由奔放な大女優が、志村の前ではどこか少女のような柔らかい表情を見せていた。
だが、二人が入籍することはなかった。なぜか。芸にすべてを捧げた二人の業が、平穏な家庭という形を拒んだからに他ならない。「一緒になれば、お互いの芸が死んでしまう」。愛しているからこそ、表現者としての相手を殺さないための、あまりにも純粋で過酷な選択だった。互いを誰よりも深く愛し、理解しながらも選んだ運命の別れ――これこそが、昭和芸能史の深淵に刻まれた愛の真実である。