鈴虫の鳴き声といえば、誰もが耳にしたことのある「リーン、リーン」という清涼感あふれる独奏を思い浮かべますが、実は彼らは状況に応じて少なくとも3種類の発音パターンを明確に使い分けています。鳴き声のバリエーションを理解することは、朝鳴く原因を特定する上で欠かせない手がかりとなります。
1つ目は、最も耳馴染みのある「ひとり鳴き(誘引鳴き)」です。メスが近くにいない状態で、遠くのパートナーへ向けて自分の存在と居場所を誇示するために発せられます。羽をほぼ垂直に立て、左右の羽を高速で擦り合わせることで、遠くまで届く澄んだ美声を響かせます。朝方に聞こえる規則正しい「リーン、リーン」は、このひとり鳴きであることがほとんどです。
2つ目は、メスがオスの至近距離に接近した際に繰り出される「求愛鳴き(口説き鳴き)」です。ひとり鳴きよりもピッチが低く、「チヨ、チヨ、チヨ……」あるいは「ジッジッジッ」と小刻みで控えめな音色に変化します。これはメスを刺激して交尾姿勢(メスがオスの背中に乗り、背部腺から出る分泌物を舐める体勢)へ誘導するための合図です。
そして3つ目が、同居するオス同士が縄張りを主張し合う「威嚇鳴き(闘争鳴き)」です。飼育ケース内でオスを複数匹過密に飼育していると、テリトリーに侵入したライバルを威嚇するため、「リッ、リッ、リッ!」と短く鋭いスタッカートの効いた音を叩きつけるように鳴らします。早朝や昼間に激しい鳴き交わしが止まらない場合、ケース内がオス過多による過密ストレス状態に陥っている可能性を疑うべきです。