どこまでも平坦に伸びる砂浜と、鈍色の空、打ち寄せる高い波頭。北野武監督が手掛けた映画『あの夏、いちばん静かな海。』の静謐な世界観を想起させる海岸線からすぐの場所に、国内でも極めて稀有ないわし資料館が併設されている。かつて江戸の経済や農業を「干鰯(ほしか)」として支えた九十九里の原点が、数千点に及ぶ漁具や古文書を通じて静かに語りかけてくる。
忘れてはならないのが、日本全図を完成させた伊能忠敬がこの九十九里町の出身であるという事実だ。測量という過酷な旅に出る前、彼が幼少期に眺めていたであろう荒涼とした海の風景。その歴史の厚みを知ってから歩く砂浜は、ただの観光地とは全く異なる陰影を帯びて見えてくる。