邸宅の重厚な扉を開けると、そこには静寂と風格が満ちている。アーチ型の窓、手描きの装飾タイル、そして深みのある色合いをたたえた木造の螺旋階段。竹中工務店の手によって1934年に施工されたこの建築は、当時の日本の最高峰の職人技術と、欧米の洗練された意匠美が見事なまでに調和した傑作である。
とりわけ目を引くのは、南面に大きく開かれたサンルームとテラスだ。光が差し込む角度の正確さから、海風を心地よく取り込む設計に至るまで、当時の建築思想の緻密さには舌を巻く。幾重もの修復作業を経てもなお、細部の意匠にはオリジナルの質感がそのまま息づいている。単に古いものを保存するのではなく、手入れを重ねることで深みを増す木肌や石の風合いは、現代の短サイクルな建築では決して再現できない価値を主張している。