物語を通じて最大のミステリーとされてきたのが、ヒル魔の出自と家族関係、そして校長から警察官までをも平伏させる「脅迫手帳(ブラックブック)」の存在です。
クリスマスボウル直前、アメリカから一本の国際電話がかかってくるシーンでその存在が明文化された父親の名は蛭魔幽也(ひるま ゆうや)。世界を渡り歩くプロのチェスプレイヤーであり、ヒル魔の人間離れした先読みの才と冷徹な勝負勘は、間違いなくこの父親から受け継がれたものでした。家庭内での虐待や金銭トラブルといった陰湿な確執ではなく、互いに一人の冷徹な勝負師として干渉せず、自立した関係を保っていたことがうかがえます。
また、誰もが恐れる「脅迫手帳」の真相も極めて示唆的です。国家権力を揺るがすような大犯罪が記録されているわけではなく、中身は泥門中学時代から栗田や武蔵とともにアメフト部を設立するため、街中の大人たちの「小さな後ろめたさ」を足で稼いで集めた情報スクラップでした。しかも半分以上は、ヒル魔の巧みな話術と堂々たる態度によって相手が勝手に白状したハッタリに過ぎません。
悪魔の皮を被りながら、その実態は「チームの勝利のために、誰よりも泥をすすり、弱みを握るために何百時間も街を徘徊した少年」の記録。手帳の厚みこそが、ヒル魔が積み重ねてきた努力の総量を証明しています。