吉野山は単なる景勝地にとどまらず、日本史を揺るがした英雄たちの悲劇と決断の舞台でもある。12世紀末、兄・源頼朝の追手から逃れた源義経が静御前と最後の別れを告げたと伝わる吉水神社は、今も静寂の中に当時の哀愁を漂わせている。境内の書院は初期書院造の貴重な遺構であり、歴史ファンなら外せない必見の地だ。
また、14世紀の南北朝時代には、後醍醐天皇が南朝の本拠地を置いた歴史がある。天皇が自ら筆を執り、失意の中でも京への再建を祈ったとされるゆかりの品々や、南朝の切ない記憶が山内各地の碑や境内に刻まれている。この地が「ユネスコ(UNESCO)」の世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部として登録されている理由は、こうした幾重にも重なる歴史的背景と信仰の深さにほかならない。