2026年に一部週刊誌とネットメディアが報じたトーマツ監査法人の内部通報対応をめぐる問題は、単なる一法人のガバナンス問題ではない。監査法人という「企業の番人」が、内部の告発に対して適切に向き合えていないのではないかという構造的な問いを投げかけた。報道によれば、特定のパートナーのパワーハラスメントや不正会計の見逃しを内部通報した職員に対し、配置転換や評価引き下げなどの報復的措置が取られた疑いがあるという。
現場の公認会計士からは「監査の仕事はクライアントと対峙する強さが必要なのに、組織内では上に逆らえない空気がある」「内部通報制度は形骸化している」といった声が聞かれる。日本の組織に広く見られる同調圧力と、心理的バウンダリー(境界線)の欠如が、監査という職業の独立性を内部から蝕んでいる可能性は否定できない。
企業倫理の専門家は、この問題を「プロフェッショナル・ファームの二重規範(ダブルスタンダード)」と分析する。すなわち、対外的にはクライアント企業に厳格なガバナンスを求める一方で、自組織内部の統治には甘いという矛盾である。監査法人の信頼は、外部の監査品質だけでなく、内部の公正さと透明性によっても支えられる。2026年の一連の報道は、その当然の原則が揺らいでいることを浮き彫りにした。