「手術を終えて帰宅した愛猫を見たら、まだタマタマがあるように見える」という戸惑いは、術後初期の飼い主から最も多く寄せられる相談の一つです。この現象を正しく理解するには、外科的な摘出部位の構造を把握する必要があります。
猫の去勢手術において切除されるのは内部の「精巣(睾丸)」であり、それを包んでいた外側の皮膚組織である「陰嚢(玉袋)」そのものは切除されずに残されます。これが「猫の去勢後に玉袋が残る理由」です。術後直後は皮膚が収縮しきっていないため、あたかも精巣が残っているかのような外観を呈します。
さらに臨床現場で注意を要するのが、術後の腫脹(はれ)です。手術創の炎症反応や、精巣を摘出した空洞に血液や漿液(しょうえき)が一時的に溜まる「漿液腫(セローマ)」によって、術前以上に膨らんで見える事例が存在します。以下の識別基準をもとに、正常な治癒経過と動物病院へ再診すべき異常状態を冷静に見極める姿勢が求められます。
- 正常な経過:触れても熱感がなく、猫が過度に痛がらない。術後1〜2週間で徐々に縮小し、最終的には皮膚が縮んで被毛に覆われ目立たなくなる。
- 警戒すべき異常(即受診):陰嚢が赤く鬱血している、触れると明確に熱を持っている、傷口から出血や膿が出ている、猫が患部を執拗に舐め壊そうとする、食欲不振や発熱を伴う。
猫の去勢手術の傷跡と経過は、通常縫合糸を用いない無縫合手術や生体用接着剤、医療用吸収糸が主流となっており、創部自体は7〜10日程度で自然に閉鎖します。過剰なグルーミングによる感染を防ぐため、エリザベスカラーや術後服の適切な装着が経過観察の鍵を握ります。