この特異な言葉を持つ代表的な植物がホウセンカ(鳳仙花)です。学名をImpatiens balsaminaと呼びますが、属名の「Impatiens(インパチェンス)」はラテン語で「我慢できない」「耐えられない」を意味する言葉に由来しています。英語圏でもその名はずばり「Touch-me-not」と呼ばれ、洋の東西を問わず共通のイメージで定着してきました。
この名が付けられた最大の根拠は、ホウセンカの種が弾ける経緯とメカニズムにあります。開花を終えたホウセンカの果実は、内部の果皮細胞が成熟するにつれて強力な水分張力(膨圧)を蓄積していきます。外見上は静かにぶら下がっているように見えますが、内部組織は極限まで張り詰めた弓の弦のような緊張状態にあるのです。
実が熟し切った段階で、人間や動物の体がわずかに触れたり、強風に揺られたりするだけで、5枚の果皮が一瞬で内側へ螺旋状に巻き上がります。その破裂エネルギーによって、中心部に詰まった黒褐色の種子が半径2メートルから3メートル以上の広範囲へ放射状に弾け飛びます。外敵を威嚇するためではなく、親株から少しでも遠くの肥沃な地面へ次世代を散布するための極めて合理的な生存戦略ですが、その激しい反応を目の当たりにした昔の人々は「触れられることを激しく拒絶している」と直感したのです。
さらに、ホウセンカ以外にも物理的な接触に対して激しい反応を示す植物が同様の言葉を冠されています。
例えば、指先で触れると葉を瞬時に閉じ、茎ごと下へ垂れ下がるオジギソウ(含羞草)も、「繊細な感情」という花言葉の裏に「私に触らないで」という意味を秘めています。これは葉の付け根にある葉枕(ようちん)内の細胞から水分が急速に抜ける浸透圧現象による運動ですが、その姿はまるで人間が身を縮めて他者を拒む仕草そのものです。
また、道端や森林に自生するイラクサ(蕁麻)も「触らないで」の代表格です。茎や葉の表面にヒスタミンやアセチルコリンを含むガラス質の刺毛(しもう)をびっしりと備えており、不用意に触れた動物の皮膚を刺して激痛と発疹をもたらします。イラクサが持つ花言葉は「悪意」「中傷」「私に触らないで」という極めて警戒心の強いものであり、こちらは文字通り物理的な危険を警告する生体防御のメッセージとなっています。