医療情報サイト「All About」で耳鼻咽喉科専門医が言及している通り、健常な成人の耳に水が入っただけであれば、体温による蒸発や頭の日常動作によって、通常は数時間以内に自然解消するのが生理学的な事実です。水深数十メートルの高圧環境に潜ったわけでもない日常の入浴や水泳で、丸一日以上も純粋な水分だけが耳の中に留まり続けることは構造上考えにくいとされています。
それにもかかわらず、SNSや知恵袋などのコミュニティでは「3日間ずっと耳に水が入った感覚が抜けない」「水がチャプチャプ鳴って治らない」という悲痛な声が後を絶ちません。こうしたケースで実際に耳鼻科を受診した患者を診察すると、極めて高い確率で発見されるのが耳垢塞栓症(じこうそくせんしょう)です。
耳垢塞栓症とは、外耳道に蓄積していた乾燥した耳垢が、侵入してきた水分をスポンジのように一気に吸収して膨張し、耳の穴を完全に密閉してしまう病態です。患者本人は「奥に水が溜まっている」と強く錯覚していますが、実際の耳の中は、水分を吸って巨大化した耳垢の塊が鼓膜手前を塞ぎ、皮膚を圧迫している状態です。
この状態に気づかず、自力で綿棒や耳かきを押し込むと、膨らんだ耳垢がさらに奥へと圧縮され、激しい耳鳴りや難聴、自声強調(自分の声が頭の中で異常に響く現象)を引き起こします。耳鼻科クリニックの臨床統計でも、入浴・水泳後の閉塞感を訴えて来院した患者の約3〜4割に耳垢の閉塞が確認されており、「水が抜けない=水滴が存在する」という思い込みこそが最大の罠と言えます。