泉鏡花を語る上で避けて通れないのが、白装束に身を包み夜叉の如き太刀筋で標的を両断する異能力「夜叉白雪(やしゃしらゆき)」です。近接戦闘において圧倒的な殺傷能力を誇るこの異能は、当初、鏡花自身の意思では完全に制御できず、首から下げた旧式の携帯電話から流れる「声」を介してのみ発動・命令受諾が可能という特殊な制約を背負わされていました。
この不条理な制約の背景には、鏡花の両親の死に関する痛切な真相が隠されています。報道関係者や熱心な考察勢が注目した過去のエピソード(原作コミックス第8巻、アニメ第9話・第35話等)で明かされた通り、鏡花の両親はかつて政府の秘密工作機関に属する極秘工作員でした。父親は元暗殺者、そして母親は「夜叉白雪」の元の所持者だったのです。
かつて裏社会から足を洗い、愛娘の鏡花と平穏な暮らしを送っていた一家を襲ったのは、父親の過去を怨む敵対勢力による精神操作系の異能攻撃でした。操られた両親は互いに殺し合おうとし、さらには幼い鏡花に刃を向けそうになります。自我が崩壊する極限状態のなか、母は愛する娘を守るため、自身の異能を鏡花へと移譲する禁忌の技術を用い、夜叉白雪に自らと夫を斬らせて娘の命を救ったのでした。
しかし、幼心に「自分の異能力が最愛の両親を惨殺した」という記憶だけが焼き付いてしまった鏡花は、激しい自己否定とトラウマの暗闇に突き落とされます。そこへつけ込んだのが、ポートマフィアの芥川龍之介でした。芥川は彼女の弱みと携帯電話を悪用し、夜叉白雪を殺人兵器として利用。わずか半年の間に35人もの人間を暗殺させるに至ります。
「私はもう、一人も殺したくない」――。暗闇のなかで魂をすり減らしていた鏡花のポートマフィア脱退理由は、明確でした。人を殺めることへの底知れぬ嫌悪と罪悪感、そして「自分は光の世界に出てはいけない殺人者なのだ」という絶望が臨界点に達したとき、彼女は自らを爆弾と共に海へと沈め、死をもって組織の軛から逃れようとしたのです。