この問題が世界的な関心事へと発展した最大の契機は、ユネスコの諮問機関であるICOMOS(国際記念物遺跡会議)が2023年秋に発出した「ヘリテージ・アラート(遺産危機警告)」でした。イコモス警告と伐採中止要請の理由は極めて明確です。神宮外苑は、明治天皇の遺徳をしのび国内外の市民からの献金と約10万本に及ぶ献木によって大正時代に造られた「日本屈指の近代文化的景観」であり、世界的に見ても類まれな市民参加型都市公園であるという点です。
イコモスは、一度失われれば二度と再生できない歴史的森林景観が民間主導の商業再開発によって不可逆的に破壊されると痛烈に批判。環境影響評価(アセスメント)のやり直しと事業の即時中止を求めました。この動きに呼応するように、樹木の根への影響に関する専門家見解が相次いで発表されました。樹木医学や造園学の有識者からは以下の懸念が示されています。
「100年をかけて地下深くに独自の生態系と菌根ネットワークを形成したいちょうの根は、樹冠の広がりをはるかに超えて四方に伸びている。地上から見える距離だけでなく、地下の保水層や土壌呼吸を遮断すれば、数年から十数年のタイムラグを経て枝枯れや樹勢の衰退が確実に顕在化する」
さらに、生前の音楽家・坂本龍一氏が小池百合子東京都知事らに宛てて送った「開発を止めるべきだ」という手紙が大きな反響を呼び、いちょう並木伐採反対のネットの反応は急速に過熱しました。オンライン署名サイトでは数十万人規模の賛同が集まり、SNS上では「#神宮外苑の樹木伐採に反対します」というハッシュタグを伴う投稿が日常的に交わされるなど、単なる一地域の開発を超えた市民的アジェンダとして定着しています。