無量大数を超える単位として、日本人の知的好奇心を刺激し続けている代表格が、仏教の根本経典の一つである『華厳経(けごんきょう)』に登場する数詞群です。
大乗仏教の経典である華厳経の巻第四十五「阿僧祇品」では、心王菩薩の問いに対し、仏(釈迦)が無量の境地を言葉で表す場面が描かれます。そこでは「倶胝(くてい=$10^7$)」を二乗した「阿ゆ多(あゆた)」から始まり、次々と二乗を繰り返す途方もない指数計算が展開されます。
その究極の到達点として名高いのが「不可説不可説転(ふかせつふかせつてん)」です。この数を現在の数学的な指数表記に換算すると、おおよそ以下の値になります。
不可説不可説転 = $10^{7 \times 2^{122}} \fallingdotseq 10^{3.72 \times 10^{37}}$
この数字の凄まじさは、「1の後にゼロが約37澗(かん=$10^{36}$)個並ぶ」という点にあります。無量大数がゼロ68個であるのに対し、不可説不可説転はゼロの個数そのものが無量大数を遥かに超えているのです。古代インドの仏教哲学者たちが、仏の救済や功徳が人知の到底及ばない無限に近い広がりを持つことを示すために構想した、驚くべき言語的モニュメントと言えます。