幻想のヴェールを剥ぎ取った先に現れるのは、冷徹で緻密な自然の造形だ。寺社の釣鐘や民家の窓枠で発見され、優曇華として騒がれるもののほとんどは、昆虫綱アミメカゲロウ目に属するクサカゲロウの卵塊である。母虫は腹部先端から粘着性の高い分泌物を抽出し、それを空中で瞬時に固めて長さ数ミリから1センチほどの極細の柄を形成する。その先端に、米粒よりはるかに小さい一個の卵を産み付けるのだ。
この独特の形状は、孵化した幼虫同士の共食いを防ぎ、アリなどの地上徘徊性捕食者から卵を守るための驚異的な進化の産物である。近年、走査型電子顕微鏡や微細気候モニタリングを駆使した生態研究が進むにつれ、都市部のアスファルトやガラス面といった人工的な乾燥環境にも適応するクサカゲロウの生存戦略が明らかになってきた。人々が吉兆あるいは呪いとして拝んできたものは、都会の片隅で懸命に命を繋ごうとする、一匹の羽虫の生存闘争そのものだった。