美術やデッサンで名高い「石膏像ヘルメス」はなぜ多くの人を魅了し、難関とされるのか。その答えは、紀元前4世紀のアテネで活躍した彫刻家プラクシテレスが生み出した、極めて特異な造形手法に隠されています。石膏像ヘルメス特徴を語る上で欠かせないのが、古典主義的な緊張感から脱却し、神々の姿に人間の肉体が持つしなやかさと官能性を吹き込んだ「柔和なリアリズム」です。
ブルータスやアグリッパといった面構成がはっきりした石膏像であれば、光の当たり方によって明快な「面」の切り替わりが視認できます。ところがヘルメスの場合、額から頬、そして顎先にかけてのラインに明確な稜線がほとんど存在しません。筋肉と脂肪が滑らかに連続し、光が微細なグラデーションとなって拡散していくため、描き手はどこでトーン(調子)を切り替えるべきかの判断を常に迫られます。
さらに観察者を幻惑するのが、頭部の絶妙な傾きと視線の向きです。右足を軸にして腰を引くコントラポスト(体重移動)によって、上半身には微細な捻れが生じています。首はわずかに前傾しながら右下へと傾き、瞳のない双眸は遠くの内省的な世界を見つめています。この「静止しているのに内部で動き続けている」動態構造を立体的に把握できないまま描き進めると、顔のパーツだけが平面的に貼り付いたような、生気のない絵に陥ってしまうのです。