「野生のポケモンが現れた」というシチュエーションがこれほどまでに人々の記憶に刻み込まれている理由は、視覚情報だけではありません。聴覚を刺激する音響設計の緻密さが決定的な役割を果たしています。
初代『赤・緑』から楽曲制作を手がけた増田順一氏によるエンカウントBGMは、イントロの数音を聴いただけで全身の筋肉が反射的にこわばるような緊張感を持っています。あの「ジャジャジャジャッ!」という鋭角的なベースラインの連打と、画面が渦を巻くように暗転していく効果音(SE)のコンビネーションは、心理学でいう「古典的条件づけ(パブロフの犬)」と同様の生理現象をプレイヤーの脳内に形成しました。
ゲーム機を手放して何年も経った大人であっても、日常の中で「野生の〜」という言葉を聞いた瞬間、無意識のうちに脳内で戦闘突入のファンファーレが鳴り響きます。聴覚と緊迫感が強固に結びついているからこそ、突発的なハプニングに遭遇した際、「まるでポケモンの戦闘に入ったようだ」という比喩表現が直感的に立ち現れるのです。