高松市美術館が全国の公立美術館の中で特異な存在感を放つ最大の理由は、「戦後日本の現代アート」と「伝統の讃岐漆芸」という、一見すると対極にある2つの柱を極めて高い水準でコレクションしている点にあります。
多くの公立美術館が郷土ゆかりの近代洋画や日本画を中心に収集していた1980年代後半、高松市美術館は明確な方針を打ち出しました。具体美術協会やもの派、ネオ・ダダといった戦後日本のアヴァンギャルド(前衛美術)を体系的に収集するという、当時としては極めて先駆的な決断を下したのです。公式記録や当時の関係者の証言によると、同館は「現在進行形の表現こそが都市の活力を映し出す」という確固たる理念のもと、草間彌生、李禹煥、白髪一雄らの重要作を黎明期から収蔵してきました。2026年の現在から振り返っても、その先見の明は圧倒的です。
一方で、香川県が誇る工芸の至宝讃岐漆芸のコレクションも他の追随を許しません。江戸時代末期に玉楮象谷(たまかじぞうこく)が創始した独自の漆芸技法(蒟醤・存清・彫漆)は、明治から昭和・平成へと受け継がれ、音丸耕堂や磯井如真ら多数の重要無形文化財保持者(人間国宝)を輩出しました。館内では、極限まで研ぎ澄まされた漆の繊細な美と、エネルギーに満ちた現代アートの衝撃が同一の空間で交錯し、鑑賞者に強烈な知的刺激を与えています。