この奇跡的な作物を生み出したのが、岡山県の農業ベンチャー「株式会社D&Tファーム」である。技術の生みの親である田中節三氏は、かつて専門的な植物学者でも大学教授でもなかった。熱帯の果実を日本の庭先で実らせたいという純粋な好奇心から、半生を賭けた実験をスタートさせた人物だ。
田中氏が着目したのは、数万年前の地球を襲った氷河期だった。過酷な氷点下の気候を生き延びた太古の植物には、極限状態を耐え抜く強靭な遺伝情報が刻まれているはずだという仮説である。その閃きから生み出されたのが「凍結解凍覚醒法」と呼ばれる独自技術だ。バナナの生長点をマイナス60度の超低温下で半年間ゆっくりと凍結し、その後解凍して植え付ける。細胞に人工的な氷河期を疑似体験させることで、熱帯性の植物が持つ潜在的な耐寒性と生命力を呼び覚ますアプローチである。
常識破りの手法が生んだ果実は、「もんげーバナナ開発プロジェクト」として結実した。「もんげー」とは岡山弁で「ものすごい」を意味する感嘆詞。かつて学会から冷笑された試みは、瞬く間に農業の景色を塗り替える原動力となった。