極上の仕上がりを左右する戦いは、火をつける前のキッチンカウンターですでに始まっています。調理前の工程において最も頻出するミスが、冷蔵庫から取り出して冷え切った状態のままフライパンへ投入してしまうケースです。
最重要となるのは、肉を常温に戻すタイミングです。冷蔵庫から出した直後の肉の中心温度は約4℃〜6℃。この冷えた状態のまま加熱すると、表面だけが焦げ焦げになりながら中心部は冷たい「ブルーレア(生焼け)」に陥るか、中心まで火を通そうとするあまり外側を完全に焼き縮めてしまう二者択一の失敗に追い込まれます。一般的な厚み(2.5cm〜3cm程度、約150g〜200g)の牛ヒレステーキであれば、調理開始の30分〜45分前(冬季は60分前)に冷蔵庫から出し、室温20℃前後の室内に置いて中心温度を15℃前後まで引き上げるのが鉄則です。
あわせて欠かせないのが、ステーキの筋切りと下ごしらえです。ヒレ肉の表面に「シルバーツヤ」と呼ばれる銀白色の筋膜(結合組織)が残っている場合、筋繊維よりも高い温度で激しく収縮し、肉全体を反り返らせて焼きムラの原因となります。包丁の刃先を筋と肉の間に滑り込ませ、肉の可食部を削り落とさないよう薄く筋膜を引き剥がしてください。また、加熱直前のペーパータオルによる「徹底的な表面水分の拭き取り」も必須です。表面にドリップが残っていると、加熱初期に気化熱が奪われてメイラード反応が阻害され、香ばしさが生まれる前に肉が煮えてしまいます。
塩を振るタイミングについても科学的な検証がなされています。塩を振ってから15分以上放置すると、浸透圧によって内部から貴重な水分が引き出されてしまいます。したがって、塩・胡椒は「フライパンに投入する直前1〜2分以内」に振るのがプロの常識です。