生オリーブを口にした瞬間に感じる耐え難いエグみは、果肉に含まれるポリフェノール化合物「オレウロペイン(Oleuropein)」に起因します。この物質は植物が外敵から種子を守るための自己防衛成分であり、赤ワインに含まれるタンニンや緑茶のカテキンとは比較にならないほどの強い苦味と収斂性(口の中がすぼまるような感覚)を持っています。
オレウロペインは水溶性であるものの、分子構造が非常に安定しているため、単に水や濃い塩水へ浸すだけでは果肉の深部から抜けるまでに数ヶ月から半年以上の時間を要します。そこで不可欠となるのが、アルカリ性の水溶液を用いた「エステル結合の加水分解」です。アルカリ成分が果皮のクチクラ層を透過して内部のオレウロペインと接触すると、苦味のないヒドロキシチロソールとエレン酸へと化学分解され、短期間で劇的に渋みが消失します。
「塩分を強くすれば早く渋が抜ける」という説は完全な誤りです。高濃度の塩水にいきなり漬けると、浸透圧によって果肉の水分が一気に外へ引き出され、果皮が硬化して渋み成分が内部に閉じ込められてしまいます。渋抜きと塩漬けは完全に独立した2つの工程として捉える必要があります。