『刀鍛冶の里編』の白眉といえば、無一郎の壮絶な出自を描いた第8話「無一郎の無」です。ここでファンを驚嘆させたのが、双子の兄・時透有一郎、そして幼少期の無一郎を含めたすべてを河西健吾が一人で演じ分けたという事実です。
外見が瓜二つの双子でありながら、性格は正反対。無一郎が「人のためにすることは巡り巡って自分のためになる」という父の教えを信じる純真無垢な少年であったのに対し、有一郎は「情けは人のためならず(人に情けをかけても何にもならない)」と言い放ち、弟を守るためにあえて刺々しい言葉で世界を拒絶していました。
声優の演技論において、声質が同じ状態で性格と心理的距離感を差別化することは極めて高度な技術を要します。河西健吾は、以下のような緻密なコントロールによってこの演じ分けを成立させました。
鬼に襲われ瀕死となった有一郎が、神仏に対して「弟だけは助けてやってくれ」と血を吐きながら祈る場面において、河西健吾の芝居は圧巻の極致に達しました。一人二役でありながら、そこに存在するのは完全に独立した二人の魂の衝突と融和であり、多くの視聴者が涙を流した名シーンとなっています。