当初、記念すべき10作目として準備が進んでいたのは『ザ・ムービー・クリティック』だった。1970年代のポルノ雑誌に映画評を寄稿していた無名ライターを題材にしたとされる企画は、プリプロダクションの直前で突如として白紙に戻された。関係者への取材によれば、プロットの一部が業界内に漏洩したことに対する監督の激しい不信感と、自ら課した高いハードルへの葛藤が決断の背景にあったという。
クエンティン・タランティーノは過去にも初期稿の流出に激怒し、製作を一時凍結させた経緯を持つ。今回も同様の脚本流出疑惑が囁かれたが、実態は単なるトラブル回避にとどまらない。自身のキャリアを締めくくるにふさわしい「決定打」ではないと直感し、巨額の準備費用を捨ててまでゼロからの再構築を選んだのだ。妥協を一切許さないシネアストの狂気とも呼べる執念が、幻の脚本を生み出す引き金となった。