「排便時に出血したけれど、痛みがあるから切れ痔だろう」「以前からいぼ痔持ちだから心配ない」——こうした自己判断こそが、消化器内科の専門医が最も警鐘を鳴らす危険な落とし穴です。大腸がんと痔は発生するメカニズムも治療法も全く異なる疾患ですが、初期段階で自覚できるサインが酷似しています。
痔は大きく分けて、肛門周辺の静脈がうっ血してコブ状になる「内痔核・外痔核(いぼ痔)」、硬い便によって肛門の皮膚が切れる「裂肛(切れ痔)」、細菌感染によって膿のトンネルができる「痔瘻(あな痔)」の3種類があります。これらはいずれも肛門周囲の局所的な良性トラブルです。
一方の大腸がんは、大腸(盲腸・結腸・直腸)の粘膜に発生する悪性腫瘍です。特に肛門に近い直腸に病変ができると、便が通過する際に腫瘍の表面が擦れて出血し、痔と見分けがつかない鮮血が出ます。最大の問題は、大腸がんは初期段階ではほぼ自覚症状がないという点です。肉眼で血便が確認できたり、便が細くなったりする頃には、ある程度腫瘍が大きくなっている可能性が高いため、「症状が軽いから痔に違いない」と過信するのは極めて危険です。