中央を富士川が流れ、険峻な山々に囲まれた山梨県南巨摩郡身延町。この地が信仰の要衝となった起源は、鎌倉時代中期の文永11年(1274年)、日蓮聖人が波木井実長の招きに応じて身延の山中へ入山した日に遡る。
佐渡流罪という過酷な試練を経て、身延を終生の棲家と定めた日蓮聖人は、ここで法華経の読誦と後弟の育成に晩年を捧げた。その草庵跡から発展したのが、現在の日蓮宗総本山身延山久遠寺である。
境内を歩けば、ただ古い建造物が立ち並んでいるだけではないことに気づく。大講堂から響く力強い太鼓の音、重なり合う唱題の響き。中世から連綿と受け継がれてきた肉声の祈りが、巨木に囲まれた谷間に反響し、空間そのものを震わせている。