本作には、初見では見落とされがちな極めて精密な映像的・劇的伏線が張り巡らされています。その最たるものが、クィレル先生に隠された伏線と真相です。映画冒頭の漏れ鍋でハリーと対面した際、クィレルは「ポッター……お会いできて光栄です」と語りながらも、ハリーの差し出した右手をあからさまに拒絶して握手を避けています。この一見すると極度の人見知りに思える所作こそ、ハリーの皮膚に宿る防護魔術に触れると自らの肉体が灰と化すことを本能的に知っていた証拠でした。
さらに、クィディッチの試合でハリーの箒が呪われた際、観客席で呪文を唱え続けていたスネイプの隣で、瞬きもせずハリーを睨みつけていたクィレルの姿が描かれています。ハーマイオニーがスネイプのローブに火をつけたことで偶然クィレルが巻き込まれて倒れ、呪詛が解けたという演出は、ミスリードと真相の開示を完璧に両立させた見事な脚本術です。
また、みぞの鏡に映る本当の欲望と理由も、物語のテーマを深く掘り下げる重要な装置となっています。鏡の上に刻まれた銘文「Erised stra ehru oyt ube cafru oyt on wohsi」を逆に読むと「I show not your face but your heart's desire(私はあなたの顔ではなく、あなたの心の望みを映す)」となります。家族を知らないハリーには「微笑む両親と先祖」が、常に兄たちの影に隠れてきたロンには「首席バッジをつけ監督生となった自分」が映し出されました。ダンブルドアが賢者の石の隠し場所にこの鏡を選んだのは、「石を手に入れたいだけで、使おうと思わない純粋な心の持ち主」だけが石を取り出せる仕組みを施したためでした。
そして忘れてはならないのが、ハリーが初めてのクィディッチ公式戦で口でキャッチした金のスニッチに隠された秘密です。スニッチには「肉体記憶(フレッシュ・メモリー)」という魔法特性があり、製造者ですら手袋を着用して触れるため、世界で最初に素肌で触れた者の生体情報を正確に記憶します。第1作でハリーが唇でスニッチを捕らえたこの偶然のワンシーンが、最終作『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』において、ダンブルドアの遺品となったスニッチに唇を当てて「私は終わるときに開く」という暗号を解き、蘇りの石を取り出すという超長編の伏線回収へと直結しているのです。