地域農業改良普及センターの指導員やJA直売所の相談窓口には、毎年初夏から秋にかけて、家庭菜園愛好家からの切実な声が殺到します。
「家庭菜園歴5年の市民農園利用者が語った『毎年トマトやナスを育てる感覚で、植え付け前に苦土石灰をしっかり撒いて土を寝かせていた。そうしたら収穫したじゃがいもの8割が黒いかさぶたに覆われて全滅同然になった』という告白は、典型的な知識の罠を物語っています」と話すのは、長年関東近郊で営農指導に携わる専門家です。ネット上の質問掲示板でも「石灰を撒いて消毒したはずなのに、なぜ病気が出るのか」という困惑が後を絶ちません。
一般的な野菜栽培において「酸度矯正のための石灰施用」は基本動作とされています。しかし、じゃがいもにとってこの常識は致命的な毒となります。苦土石灰や消石灰を投入して土壌pHが6.0を超えた瞬間、土壌中に眠っていた放線菌にとって理想的な増殖環境が完成してしまうのです。
また、近年のレモン栽培ブームに伴い、ベランダや庭先で鉢植えレモンを育てる都市部ユーザーの間では「無農薬神話」による失敗が際立っています。SNS上では「葉が縮れてボロボロになり、果実に茶色い突起が無数に出た。病気だと知らずに放置していたら隣のみかんの木にまで飛び火した」という嘆きが散見されます。
柑橘類におけるそうか病は、一度イボ状の組織が形成されてしまうと、現代の最新農薬技術をもってしても「組織を元通りに修復する(治療する)」ことは不可能です。現場のプロ農家が異口同音に「柑橘のそうか病は、症状が出る前に抑え込む“予防”が全てであり、後追い治療という概念は存在しない」と語る所以がここにあります。