現役医師作家・久坂部羊の小説が読者の心を掴んで離さない最大の要因は、既存の医療ドラマにありがちな「奇跡の手術で命を救う名医」というファンタジーを真っ向から粉砕する点にあります。作品内で描かれるのは、救命の美名の裏に潜む医師の出世欲、医学界の硬直した権力闘争、そして本人の意思を置き去りにしたまま機械的に続けられる延命治療のグロテスクさです。
著者は自著や各種インタビューのなかで、「医療は人を救うが、同時に人を苦しめる道具にもなり得る」という主旨の告白を一貫して語っています。大学病院の外科・麻酔科や在外公館、そして高齢者医療の最前線で多くの「死」と「老い」を直接見届けてきた一次情報があるからこそ、その描写は驚異的な説得力を帯びています。読者はページをめくるごとに「もし自分や家族がこの立場に置かれたらどうするか」という逃れようのない倫理的選択を突きつけられ、戦慄とともに知的好奇心を刺激される構造になっています。