膝関節を曲げ伸ばしした際に発生する異音は、医学的には「関節クリックス音(クリック音)」や「クレピタス(軋轢音)」と呼ばれます。この現象が起きる要因は、大きく分けて生理的なものと病的なものの2系統が存在します。
まず、日常生活で最も頻繁に遭遇するのが、膝がパキパキ鳴るが痛みなしというシチュエーションです。この主たる原因は、関節を包む関節包の中で生じる「キャビテーション(空洞化現象)」にあります。膝を深く曲げるなどして関節内圧が急激に変化すると、潤滑油の役割を果たす関節液の中に溶け込んでいた気体が微細な気泡となり、それが一気に弾ける瞬間に衝撃波として「パキッ」「ポキッ」という音を放つのです。指の関節をポキッと鳴らす現象と同一のメカニズムであり、数十分〜数時間に一度しか鳴らず痛みが皆無であれば、直ちに重大な骨損傷を心配する必要はありません。
一方で、膝のパキパキ音の原因が生理的気泡ではなく、腱や靭帯が骨の隆起を乗り越える際の摩擦、あるいは膝軟骨のすり減りによる骨同士の接触である場合、話は一変します。関節軟骨には痛覚神経が存在しないため、軟骨が削れ始めている段階では「音はするけれど痛くない」という状態が成立してしまいます。
膝の音が鳴るのを放置するリスクとして最も懸念されるのは、無症状のまま微小な炎症と摩耗を繰り返し、気づいたときには関節軟骨が広範囲に消失している事態です。一度失われた関節軟骨は自己再生が極めて困難であるため、「痛くないから安全」という思い込みこそが最大の落とし穴と言えます。