カウンセリングに足を運んだ際、ほぼ確実と言ってよい確率で提示されるのが「脂肪吸引だけだと将来絶対に皮膚がたるむので、糸リフトの同時施術が必須です」という抱き合わせ提案です。数十万円単位で総額が跳ね上がるこの提案は、医学的正当性に基づいたものなのか、それともクリニック側の商業的アップセルなのか。その内情にメスを入れます。
日本美容外科学会に所属する複数のベテラン形成外科医の見解は明快です。「20代〜30代前半で皮膚の弾力が充分に保たれており、吸引量が標準的であるならば、糸リフトの同時挿入は原則として不要」です。若年層であれば、脂肪を除去した後に生じる拘縮プロセスによって皮膚は自然に下顎骨へと引き締まります。糸リフトは牽引力を発揮する期間が半年から1年程度と限定的であり、土台となる組織の癒着が完了すればその張力的な役割の多くを終えてしまいます。
ただし、40代以降で皮膚の真皮線維が菲薄化している場合や、顎下から大量の脂肪(80cc〜100cc以上)を一気に除去するケースでは、重力に負けて余剰皮膚が下垂するリスクを物理的に抑え込む「足場」として糸リフトが補助的に機能する場面もあります。問題なのは、解剖学的根拠のないまま若年層全員に判で押したように高額な特殊糸を8本〜12本も追加契約させるビジネスモデルです。「今契約しないと取り返しのつかないたるみになる」と不安を煽るセールストークには強い警戒が必要です。
また、SNS上に溢れるビフォーアフター症例写真の信憑性にも注意を払わなければなりません。アフター写真だけ広角レンズを顎下から見上げるように当てて顎先を尖らせて見せたり、首を前傾させてビフォーの二重あごを強調し、アフターでは顎を引いて背筋を伸ばした姿勢で撮影するなどの「演出」が横行しています。加工やライティングに惑わされず、無表情かつ同一の角度・照明条件下で記録された症例を提示できる医師かどうかを見極めなければなりません。