オープナー戦術の起源は、2018年5月19日にタンパベイ・レイズのケビン・キャッシュ監督が断行した奇策に遡ります。潤沢な資金力を持つニューヨーク・ヤンキースやボストン・レッドソックスと同じア・リーグ東地区に所属しながら、年俸総額でリーグ下位に甘んじていたレイズは、度重なる先発投手の故障離脱という危機的状況に直面していました。そこで編み出されたのが、救援右腕のセルジオ・ロモを「先発」としてマウンドに立たせ、1回を投げ終えた段階で本来の先発候補である左腕ライアン・ヤーブローへとスイッチする奇策でした。
この戦術を後押ししたのが、セイバーメトリクスにおける極めて明確なデータ分析です。野球の統計データにおいて、「1試合の中で打者が同じ投手と対戦する回数が増えるほど打撃成績が跳ね上がる」という現象はTTOP(Times Through the Order Penalty:打順3巡目の壁)として知られています。MLB公式スタットキャストの膨大な追跡データによると、投手の被打率は1巡目と比較して3巡目で2割近く上昇し、長打を浴びる確率は劇的に跳ね上がります。
さらに、試合開始直後の初回は「1番・2番・3番」という相手チームで最も出塁率と長打率が高い打者が確実に打席に立ちます。つまり、最も失点確率が高い「初回上位打線」に絶対的リリーバーをぶつけて無失点で切り抜けさせ、2回以降の下位打線(4番〜6番、あるいは7番以降)から第二先発を登板させれば、相手の上位打線と対峙する回数を実質2回までに抑え込むことが可能になります。「先発は最低5回を投げるべき」という固定観念を捨て、数学的アプローチで失点期待値を極小化した結果、低予算のレイズは同シーズンに90勝を挙げる大躍進を遂げました。