1989年のアニメーション版において、宮廷音楽家セバスチャンは表情豊かな「漫画的デフォルメ」の象徴だった。大きな目、くるくる変わる表情、コミカルな身振り。しかしロブ・マーシャル監督が率いる実写版チームが選択したのは、徹底した生物学的リアリズムである。甲殻類としての骨格、カニ特有の横歩き、湿り気を帯びた甲羅の質感。そこにはアニメ版にあった愛嬌あるカニの顔は存在しない。
この英断こそが、アリエルとのドラマに予期せぬ深みをもたらした。画面上で本物のカニと対面する主人公アリエルの姿は、観客に「異種族間のコミュニケーション」という現実的なリアリティを突きつける。目線が合わないもどかしさ、甲羅の硬質な音、水中での微妙な距離感。デフォルメを削ぎ落としたからこそ、歌声とセリフだけで感情を伝え合う二人の種族を超えた絆が、より切なく美しく際立つのだ。