岡崎市のグルメシーンにおいて、八丁味噌を使った味噌煮込みうどんと双璧をなすのが、大正庵釜春が切り拓いた独自のうどん文化です。公式発表資料および同店の沿革記録によると、創業は明治中期(1890年代)。二代目店主が「茹でたての熱々うどんを、水で締めずに大釜から直接すくい上げて提供できないか」と考案したのが、現在の元祖釜揚げうどんのルーツとされています。
この歴史ある名店で、釜揚げうどんと人気を二分する最大のフックとなっているのがもろこしうどんです。2012年11月12日放送の読売テレビ系『カミングアウトバラエティー 秘密のケンミンSHOW』にて大正庵釜春竜美ヶ丘店のもろこしうどんが特集されると、その視覚的インパクトと味のギャップが全国の視聴者に衝撃を与えました。
最大の魅力は、うどんの常識を覆す「あんかけスープの構造」にあります。ムロアジや宗田鰹など数種類の節から丁寧に引いた香り高い白醤油ベースの出汁に、ふんわりと仕上げた溶き卵のあんが全体を覆い、その上から北海道十勝産のスイートコーン(ホールカーネル)が丼の表面を埋め尽くすほど大量にトッピングされています。レンゲを入れると、コーンの自然な甘みと粒立ちの良いシャキシャキ感、そして熱々のとろみ出汁が中太の手打ち麺に隙間なく絡みつき、最後の一滴まで冷めずに味わえる設計になっているのです。
さらに近年では、岡崎市を拠点に活動する動画クリエイター「東海オンエア」のメンバーが動画内やSNSでたびたび同店のメニューに言及したことで、東海オンエアの聖地としても広く認知されるようになりました。明治からの常連客である地元の高齢層と、聖地巡礼で訪れる10代・20代の観光客が同じ座敷でうどんをすする光景こそ、大正庵釜春が持つ懐の深さを物語っています。