釜本邦茂という男の歴史を語る上で、病魔との凄まじい戦いを抜きにすることはできない。最大のハイライトは、1968年メキシコシティーオリンピックサッカー競技の直前に突如として襲いかかった急性肝炎だった。当時の医療水準からすれば、選手生命どころか命の危機すら危ぶまれるほどの重病だった。
大会開幕が迫る中、彼は絶対安静の隔離生活を余儀なくされた。体重は激減し、極度の倦怠感が巨漢の体を苛んだ。それでも彼は諦めなかった。ヤンマーディーゼルサッカー部で培った強靭なフィジカルと、当時のスポーツ医学の粋を集めた懸命な治療、そして何よりも「日の丸を背負って世界を驚かせる」という強固な意志が、奇跡的な回復をもたらしたのである。
病み上がりの体でピッチに立った彼は、本大会で世界中を震撼させる7ゴールを叩き出し、サッカー日本代表をアジア初となる銅メダルへと導いた。大会得点王の栄冠を手にしたこの劇的な復活劇は、日本のスポーツ史における金字塔として今も語り継がれている。