事件はすぐさま芝居小屋の格好のネタとなり、江戸のポップカルチャーへと昇華された。やがて昭和初期には、伊藤大輔監督、阪東妻三郎主演による無声映画の金字塔『血煙高田の馬場』が製作され、疾走する安兵衛の姿は日本映画史のアイコンとして定着した。過激なモンタージュと躍動感あふれる殺陣が、神話を決定的なものにしたのである。
さらにこのエピソードは、国民的物語である『忠臣蔵』の前日譚として組み込まれることで、不動の地位を築いた。赤穂四十七士のなかでも最強の武闘派として描かれる堀部安兵衛のキャラクター性は、この決闘での華々しい活躍によって補強され、人々の心に永遠のヒーローとして刻み込まれることになった。