五木ひろしの通算13作目となるシングル『千曲川』が世に送り出されたのは、1975年(昭和50年)5月25日のことでした。当時の五木ひろしは、再デビュー曲『よこはま・たそがれ』のメガヒット以降、トップランナーとして歌謡界を牽引していましたが、本作は従来の都会的でシャープな哀愁路線から一転、日本の雄大な大自然と旅情をテーマにした新境地の開拓でした。
この名曲の背後には、演歌界を代表する作詞家・山口洋子と作曲家・遠藤実の運命的な共作ドラマが存在します。山口洋子は五木ひろしの育ての親とも言える存在であり、都会の孤独を描く名手として知られていましたが、本作では信濃路の澄んだ空気と切ない別れを清冽な言葉で表現しました。一方、メロディを担当した遠藤実は、山口から届いた詞の世界観に深く共鳴し、千曲川のせせらぎと揺れる旅情をわずか数十分で書き上げたと伝えられています。演歌特有の重苦しさを排し、フォークソングにも通じる爽快感と深い哀愁を共存させたこの誕生秘話こそ、『千曲川』が世代の垣根を越えて愛される原点となっています。