インターネットの掲示板やSNS、知恵袋の投稿を調査すると、クリーニング後のトラブルに関する切実な声が数多く寄せられている。「返却されたスーツからガソリンスタンドのような変な臭いがする」「ビニールに入れたまま保管していたら白カビが生えた」「濃紺のジャケットが白っぽく変色した」といった叫びだ。
これらのトラブルの筆頭格である「ドライクリーニング特有の臭い」は、一体なぜ発生するのか。現場のベテラン職人は「原因は明確に乾燥工程の不足または溶剤の劣化にある」と指摘する。ドライクリーニングでは、衣類に浸透した石油系溶剤を熱風乾燥機で完全に蒸発・回収させなければならない。しかし、格安チェーン店などで繁忙期に処理能力を超えた衣類を詰め込んだり、乾燥温度・時間を短縮したりすると、溶剤が繊維の隙間に残ったまま仕上がってしまう。
さらに深刻なのは、溶剤管理の怠慢だ。ドライ溶剤は高価なため、フィルターで濾過(ろか)したり蒸留機で精製したりしながら循環再利用される。だが、濾過が不十分な古い溶剤を使い続けると、他の客の衣類から溶け出した皮脂や汚れ(酸価の上昇)が再付着する「逆汚染」が起きる。これが独特の油臭さや、淡い色の服がくすむ原因となる。
また、厚生労働省や消費者庁からも定期的に注意喚起が出されているのが、石油系溶剤残留による「化学熱傷(化学やけど)」だ。溶剤が十分に乾燥していないズボンを着用し、皮膚と密着して汗をかいたことで、重い皮膚炎や水ぶくれを起こす事故が後を絶たない。
クリーニング店から持ち帰った衣類の取り扱いには、鉄則がある。「持ち帰ったらすぐに店舗のビニール包装を破いて捨て、風通しの良い日陰で半日ほど干す」ことだ。店舗のビニール袋は配送中のホコリ除けに過ぎず、通気性がゼロである。ビニールを被せたまま湿気の多いクローゼットにしまうと、内部に微量残留した溶剤ガスが逃げ場を失って衣類を脱色させたり、密閉された湿気によってカビが大繁殖したりする最悪の環境を作り出してしまう。