骨が勝手に位置を変えることはない。肩甲骨が下方回旋に引っ張られたまま戻らなくなる背景には、筋肉同士の力関係の破綻、すなわちフォースカップル(協調的筋活動)の崩壊が存在する。臨床現場のデータ分析から、下方回旋優位に陥った身体では明確な「筋肉の二極化」が起きていることが判明している。
第一に、肩甲骨を下方回旋方向へと過剰に引っ張り続けている「過緊張トリオ」だ。
- 肩甲挙筋:首の骨から肩甲骨の内側上部を結ぶ筋肉。長時間のPC作業で頭部が前方に突出すると持続的に緊張し、肩甲骨を引き上げつつ下方回旋させる。
- 菱形筋(大小菱形筋):背骨と肩甲骨内側縁をつなぐ筋肉。過度な緊張が続くと肩甲骨を下方に回旋させたまま背骨側へロックしてしまう。
- 小胸筋:胸の深層に位置し、肩甲骨の烏口突起に付着する。これが硬縮すると肩甲骨全体を前傾させ、下方回旋のポジションで前側に固着させる。
第二に、これらの暴走を食い止め、上方回旋へ誘導すべき「機能停止筋群」である。その代表格が前鋸筋と僧帽筋(特に下部線維)だ。前鋸筋は肋骨から肩甲骨の内側縁に付着し、肩甲骨を胸郭に吸い付かせながら綺麗に上方回旋させるエンジン役を担う。しかし、現代人の多くは小胸筋や肩甲挙筋が優位になりすぎて前鋸筋が完全に脱力しており、スイッチが入らない状態に陥っている。