昭和50年代後半、大相撲は千代の富士貢という絶対王者の独壇場にあった。圧倒的なスピードと強烈な左上手投げで並み居る巨漢を薙ぎ払うウルフに対し、真正面から組み止め、完璧に封じ込めた唯一無二のライバルが隆の里だった。両者の通算対戦成績はほぼ互角。横綱同士の対決に限れば、隆の里が勝ち越しているという事実が、その実力を雄弁に物語る。
隆の里の勝因は、徹底した映像分析と間合いの支配にあった。ビデオデッキが普及し始めたばかりの時代、彼は相手の立ち合いの角度、踏み込む足の位置、指先の引っかかりに至るまでをテープが擦り切れるほど再生し、ウルフの強打を無力化する「おっつけ」の技術を極限まで磨き上げた。
怪力に頼るのではなく、力学的に相手の力を殺す。土俵中央でがっぷり四つに組み止め、千代の富士の焦燥を誘う重厚な相撲は、力と知恵が極限でぶつかり合う極上のプロスポーツ興行として、日本中を熱狂させたのである。