表通りの整然とした歩道と、建物の隙間に潜む路地裏。この境界をまたぐ瞬間、多くの人が感じる「心地よい緊張感」と「隠れ家を見つけた高揚感」には、明確な心理学的・空間論的根拠が存在します。環境心理学者ジェイ・アップルトンが提唱した「展望遮蔽理論(Prospect-Refuge Theory)」によれば、人類は進化の過程で「外からは見えにくく、自分からは周囲を観察できる場所(避難所=リフュージ)」に本能的な安心感を覚える傾向を持ちます。見通しの良すぎる近代的なオフィス街や大通りでは常に他者の視線に晒されますが、屈折した狭小空間である路地裏に入った瞬間、人は視覚的プレッシャーから解放され、心理的な防壁を手に入れるのです。
また、社会学者レイ・オルデンバーグが提唱した「サードプレイス(第3の居場所)」の観点からも、路地裏に惹かれる理由は説明がつきます。家庭(第1の場)でも職場(第2の場)でもない、社会的肩書を脱ぎ捨ててフラットに関われる場として、路地裏の個人店やカウンター席は格好の舞台を提供してきました。チェーンストアが約束する「計算された安心と均一性」の裏返しとして、人々は「自分だけの拠り所」や「偶発的な出会い(セレンディピティ)」を求め、結果としてディープスポット散策へと駆り立てられるのです。