ネット上で長年燻り続ける「健康保険証の色=年収・ランク序列説」について、医療制度を所管する関係各所への取材をもとに検証すると、導き出される事実は明快です。健康保険証の色によって年収や社会的ステータスが格付けされている事実は、制度上どこにも存在しません。
それにもかかわらず、なぜこれほど強固な都市伝説が定着したのでしょうか。その発端は、日本の公的医療保険制度が採用している「職域保険」と「地域保険」の構造的分類にあります。日本の医療保険は、勤務先や雇用形態、年齢によって加入先(保険者)が厳格に分かれています。
- 国家公務員・地方公務員・私立学校教職員:共済組合
- 大企業の会社員:組合管掌健康保険(単一または総合の健康保険組合)
- 中小企業の会社員:全国健康保険協会(協会けんぽ)
- 自営業・フリーランス・無職など:国民健康保険(各市区町村)
- 75歳以上の高齢者:後期高齢者医療制度(各都道府県の広域連合)
公務員が加入する共済組合の多くがたまたま薄いピンクや赤系統のカードを採用していた時期があり、大企業の健康保険組合がコーポレートカラーに近い青や緑、落ち着いたトーンの色彩を選定するケースが重なりました。その結果、「ピンク=公務員=安定した高待遇」「濃い青=大企業=エリート」というステレオタイプが形成され、いつしか「カードの色自体に身分や年収のランクが刻まれている」という歪んだ解釈へと飛躍していったのです。