「ここまで出かかっているのに!」ともどかしい思いをする状態は、心理学・脳科学の分野で「舌先現象(Tip-of-the-tongue phenomenon:TOT現象)」と呼ばれています。これは記憶が完全に消去されたのではなく、脳内のストレージに保存されている情報にアクセスする「検索・想起(引き出し)プロセス」で一時的な渋滞が起きている状態です。
人間の脳において、人の顔や特徴などのイメージは主に右脳の側頭葉で認識され、名前という言語情報は左脳の側頭葉や前頭葉で処理されます。つまり、人の名前を思い出すためには「顔の視覚情報」と「名前の言語情報」を結ぶ神経ネットワークを瞬時に行き来しなければなりません。この接続ルートが疲労や血流低下によって一時的に遮断されると、「顔はわかるのに名前が出てこない」というミスマッチが発生します。
特に固有名詞は、名詞や動詞のような一般単語と違って概念との結びつきが薄く、代替となる言葉が存在しないため、脳にとって最も引き出しにくい情報の一つとされています。