職人の手によって大皿の上に広げられるてっさは、皿の絵柄がくっきりと透けて見えるほど極薄に引かれます。これは単なる見た目の美しさや見栄えを追及した演出ではありません。魚類学と調理科学の観点から導き出された明確な理由が存在します。
最高峰とされるトラフグの筋肉組織は、他の白身魚(鯛やヒラメなど)に比べて極めて強靭な筋繊維と豊富なコラーゲンで構成されています。もし通常の刺身のように数ミリ単位の厚みで切り分けると、ゴムのように弾力がありすぎて人間の歯では噛み切ることができません。
包丁を一気に引き、1ミリ以下の極薄にスライスすることで、ふぐ特有の「心地よい歯ごたえ(コリコリとした弾力)」を残しながら、噛むほどに旨味成分であるイノシン酸とグリシンが口いっぱいに広がるよう計算されています。さらに、薄く引いた身を美しく並べる「菊盛り」「孔雀盛り」「牡丹盛り」といった盛り付け技法は、日本の包丁技術の最高峰として確立されています。