作家・灰谷健次郎(本名同じ)は、1934年(昭和9年)10月31日、兵庫県神戸市兵庫区に生まれました。船大工であった父親と母親、そして兄弟たちに囲まれて育ちましたが、その少年期は貧困と戦争の影が色濃く差す厳しい環境でした。
戦中・戦後の混乱期において、一家の生活は困窮を極めました。中学校卒業後、経済的な事情からすぐに全日制高校へ進学することは叶わず、昼間は印刷工場などで働きながら、夜間定時制高校(兵庫県立兵庫高校定時制)に通学するという苦難の青春時代を過ごしています。この時期の現場労働で培われた労働者階級への共感と、社会の不条理に対する怒りが、後の文学的モチーフの土台となりました。
家族の歴史において最も決定的な打撃を与えたのが、敬愛していた実兄の自死でした。貧困と病苦に追い詰められた兄の死は、若き日の灰谷の心に深い傷を残すと同時に、「なぜ人間は生きるのか」「人は他者とどう繋がるべきか」という根源的な問いを突きつける契機となりました。この過酷な体験こそが、後に発表される数々の名作に息づく、傷ついた子どもや弱者に対する徹底した温かさの源泉泉となっています。