化学火災の現場で最も恐れられているのが、水との接触による突発的な火災事故です。過酸化ナトリウムの危険性や発火理由を紐解く鍵は、水分子との間に生じる急激な発熱反応と、酸素供給の同時発生にあります。
過酸化ナトリウムと水との反応では、まず水酸化ナトリウムの生成と過酸化水素の発生が同時に起こります。
Na₂O₂ + 2H₂O → 2NaOH + H₂O₂
この反応は極めて大きな反応熱(発熱)を伴います。生じた過酸化水素(H₂O₂)は熱に非常に弱いため、自身の発熱によって即座に水と酸素へと激しく熱分解を起こします。
2Na₂O₂ + 2H₂O → 4NaOH + O₂↑ + 多量の反応熱
このプロセスで生成される高濃度の水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)は、皮膚や組織のタンパク質を瞬時に融解させる劇物です。さらに恐ろしいのは、密閉されていない開放空間であっても、周囲に紙くず、木片、油脂、衣類などの可燃物が存在した場合、発生した純度の高い高熱の酸素ガスが可燃物を一瞬で発火点まで加熱し、爆発的な火炎を巻き起こす点にあります。
さらに見落とせないのが、過酸化ナトリウムと二酸化炭素の反応です。過酸化ナトリウムは炭酸ガスを吸収して炭酸ナトリウムへと変化しながら、ここでも純粋な酸素を放出します。
2Na₂O₂ + 2CO₂ → 2Na₂CO₃ + O₂↑
この性質を利用して、かつては潜水艦や宇宙服、緊急用呼吸器における炭酸ガス吸収兼酸素補給剤として使われた歴史もあります。しかし、これは裏を返せば「火災の際に一般的な二酸化炭素消火器を噴射すると、かえって酸素を放出して猛烈に火勢を拡大させる」ことを意味しています。