彼が駆使する話法には、聴衆の心理を掌握するための明確な規則性があります。トランプのスピーチの特徴を分解すると、3つの際立った言語的アプローチが浮かび上がります。
第1に、トランプ英語の代名詞である短文リピートです。通常の演説者が「論理を積み上げて結論を導く」のに対し、トランプ氏は「結論となる短いフレーズを先に言い、それを言い回しを少し変えて反復する」手法をとります。認知心理学において「真実性の錯覚効果(Truth by Repetition)」と呼ばれる現象があり、人間は同じフレーズを複数回耳にすると、その内容の真偽にかかわらず直感的に「正しい」「親しみやすい」と錯覚する性質を持っています。
第2に、トランプの英語が聞き取りやすい理由として挙げられるのが、明瞭な強弱アクセントと「単語の塊(チャンク)」の短さです。一息で話す音のまとまりが3〜5語程度と極めて短いため、音の脱落(リダクション)や連結(リンキング)が過度に発生しません。滑らかな早口で抑揚を滑らせるエリート層の演説に比べ、単語の語尾まで強く発音するため、非ネイティブの耳にもクリアに届きます。
第3に、使用する形容詞の極端な二項対立です。「Great」「Tremendous」「Huge」「Incredible」といった最上級の賞賛か、あるいは「Disaster」「Horrible」「Failing」「Fake」といった強烈な断罪のどちらかしか使いません。グレーゾーンを排除した白黒思考のボキャブラリーが、リスナーの脳に解釈の迷いを生じさせない構造を作り出しています。