「冷やすための道具なのだから、氷だけで満たすのが一番効果的なはず」と考えがちですが、これこそが氷のうの性能を台無しにする最大の落とし穴です。氷だけを入れた氷のうの内部を観察すると、ゴツゴツとした氷同士の間に大きな隙間が生じています。その隙間を埋めているのは、熱伝導率が極めて低い「空気」です。氷の角が皮膚に点で触れるだけでは、身体の熱を効率的に吸い上げることができません。
そこで不可欠となるのが、氷の隙間を満たす適量の水です。水が介在することで氷のう全体の柔軟性が増し、氷点下近くに冷えた液体が皮膚の微細な凹凸に隙間なくフィットします。面全体で熱を奪う「熱伝導」のスイッチが入ることで、氷単体の状態と比べて冷却速度と吸収効率は比較にならないほど向上します。さらに、0度以下に過冷却された氷の角が直接肌へ強く当たり続けるのを防ぎ、皮膚の凍傷トラブルを未然に回避するバッファー(緩衝材)としての役割も果たしているのです。
水を入れた後に忘れてはならないのが、フタを閉める直前に「空気を徹底的に抜く」という工程です。氷のうを平らな場所に置くか、手で軽く押し潰して内部の余分な空気を押し出してから密閉します。袋の中に空気が残っていると浮き輪のように張ってしまい、首筋や肩、膝などのカーブにしなやかに追従してくれません。水を入れて空気を抜く——このわずか10秒のひと手間が、氷のうのポテンシャルを100%引き出す絶対条件です。