天覧試合をめぐっては、長年にわたり美化された言説や不正確な情報がネット上で拡散されてきました。代表的な誤解を検証し、事実関係を正しておきます。
誤解1:昭和天皇は巨人ファンだったから後楽園に来られたのか?
これは完全な誤解です。昭和天皇がプロ野球観戦に訪れたのは、特定の球団を応援するためではなく、戦後日本の復興期において国民に明るい希望を与えつつあった「プロ野球界全体の発展」を天覧するためでした。対戦カードとして「巨人対阪神」が選ばれたのも、当時最も人気と伝統があり、東京と大阪の東西対決として国民的注目度が最も高かったためです。中立の立場を崩されないよう、宮内庁の随行員も含めて両チームの好プレーに対して公平に拍手を送られていました。
誤解2:長嶋茂雄は天皇陛下がおられることを知らずに打ったのか?
一部で「長嶋は無我夢中で天皇陛下がおられることも忘れていた」という逸話が語られることがありますが、本人の自著や公式インタビューでは真っ向から否定されています。長嶋自身、「試合前からグラウンド全体に異様な緊張感が漂っており、貴賓席の陛下のお姿が常に目に入っていた。陛下の前で必ず打つと心に誓っていた」と明確に語っています。極度の重圧をエネルギーに変換する驚異的なメンタリティこそが真実です。
誤解3:村山実のファウル主張は単なる負け惜しみだったのか?
村山の発言を単なる言い訳として片付けるのは、プロの勝負師としての尊厳を見誤っています。村山が投じたあの一球は、長嶋のインコースを執拗に攻め続けた末の勝負球でした。村山自身、後年のテレビ番組で「あれをホームランと認めてしまったら、自分の投球術や野球人生そのものが全否定されるような気がした。だからこそファウルだと言い張るしかなかった」と胸中を吐露しています。自己の矜持を守り抜くための魂の叫びであったと捉えるべきです。