スティーブン・L・フィンク(Stephen L. Fink)が1967年に提唱した危機モデルは、人間が突発的な危機的出来事(疾病、外傷、重度障害の受容など)に遭遇した際、自我の均衡を取り戻すまでの心理的変遷を体系化した理論です。心理的エネルギーの方向性や知覚の範囲、防衛機制の働きによって、以下の4段階に分類されます。
第1段階のフィンクの危機モデル 衝撃期では、診断告知や急激な身体変化により、患者は圧倒的な精神的ショックを受けます。知覚範囲は著しく狭まり、思考が麻痺して「頭が真っ白になる」「現実感が湧かない」といった状態に陥ります。状況を論理的に理解する余裕はなく、心理的エネルギーは自己の混乱に奪われている状態です。
第2段階のフィンクの危機モデル 防御的退行期に入ると、過酷な現実から自我を守るために「否認」や「逃避」といった防衛機制が働きます。「誤診に違いない」「少し休めば元の体に戻る」と現実を直視することを避け、一見すると落ち着きを取り戻したように見える場合もあります。しかし、これは心が崩壊を防ぐための無意識の防衛行動であり、心理的エネルギーは現実逃避へ向けられています。
第3段階のフィンクの危機モデル 承認期では、避けられない現実を徐々に直視せざるを得なくなります。自らの障害や病気と向き合う中で、強い怒り、悲嘆、抑鬱状態が生じます。「なぜ自分がこんな目に遭わなければならないのか」という絶望感を抱くため、自殺リスクや精神的孤立に最も注意を払うべき危険な段階でもあります。しかし、この苦悩を通過することが再適応への必須条件となります。
第4段階のフィンクの危機モデル 適応期(再体制化期)に達すると、患者は失われた機能や現実の制約を受け入れ、残された能力を活かして新たな自己同一性(アイデンティティ)を再構築し始めます。心理的エネルギーは前向きな未来やリハビリテーション、社会復帰へと向けられ、新しい生活様式への再統合が図られます。